心臓血管外科タイトル    

親子でベンタール手術を行ったマルファン症候群の2症例

 マルファン症候群とは:マルファン症候群とは約5,000人に一人という確率で発症する先天性遺伝性疾患である。75%は遺伝、25%は突然変異で生まれ、性差人種差はない。結合組織の病変を主徴とし骨格や眼および心臓と大血管の病変を伴う。具体的には高身長、痩せ型、蜘蛛状指が特徴的で他に側わん、漏斗胸、自然気胸、水晶体の偏位や亜脱臼、大動脈や僧帽弁閉鎖不全、大動脈弁輪拡張症、大動脈解離などの症状が見られる。大動脈瘤や大動脈解離などの致命的合併症を発症すると適切な治療の有無が生命予後を左右する。今回、当院で親子二代にわたって外科手術を施行したマルファン症候群を経験したので報告する。

 症例1:マルファン症候群の父親は現在61歳で、46歳時当院で大動脈弁輪拡張症と大動脈弁閉鎖不全にて、25mmSJM弁付き28mm人工血管でベンタール手術を受けている。大動脈弁輪拡張症はマルファン症候群の心血管系の特徴病変で大動脈のつけ根が洋ナシ状に拡大し、大動脈弁が閉じなくなる病態で5cmを超えると破裂の危険と心雑音、心不全症状が出てくる。ベンタール手術は大動脈基部を人工弁付き人工血管で置換し同時に左右の冠動脈を再建する手術である。術後15年経過し他に動脈瘤所見を認めず、元気に外来通院している。今回施行した3DCT(図1)でも人工血管吻合部、冠動脈再建部に異常を認めない。

症例2:その息子30歳、身長188cm、体重73kg、同様に大動脈弁輪拡張症(最大径7cm)と大動脈弁閉鎖不全を認め、平成21623日にベンタール手術を行った。人工心肺時間3時間20分、手術時間5時間7分を要したが、出血も少なく麻酔の覚醒も良好で翌日ICUを退室した。図2は術前の3DCTで大動脈基部が洋ナシ状に拡大しているのがわかる。術中の写真でも(3)大動脈の基部が著明に拡大している。図4は人工弁付き人工血管で置換したところである。術後は10日目に水痘にかかり発熱と発疹が見られたが個室隔離とアシクロビル内服治療により軽快した。術後の3DCT(5)でも人工血管、左右冠動脈再建部位に異常を認めず人工弁の開放も異常なく退院した。

 結語1:大動脈弁輪拡張症と大動脈弁閉鎖不全を合併したマルファン症候群の親子にベンタール手術を行って良好な結果が得られた。2:今後は別の部位に大動脈疾患が発症することがあるため定期的精査が必要である。

        
図1(左):症例1の術後15年目の3DCT
図2(右):症例2の術前3DCT

  
図3(左):症例2の術中写真
図4(右):症例2の出来上がり写真


5:症例2の術後3DCT

最近の手術の話題

179歳の女性の石灰化大動脈狭窄症の患者にステントレス弁を用いた弁付き人工血管を用いてapicoaortic bypassを施行した。術中出血も少なく、心拍再開後の血行動態の立ち上がりもよかった。石灰化大動脈弁狭窄症は大動脈弁輪から上行大動脈まで石灰化が及び弁輪が狭小化し通常の大動脈弁置換はリスクが高く、さりとてトランスロケーション手術は煩雑で術後の立ち上がりが悪くなかなか手術に踏み切れないのが現状である。今回の手術は手術時間も短く予想以上に出血量が少なく、高齢者や透析患者のような全身の大動脈が石灰化している症例には応用できると感じた。

1():術前のCTで大動脈弁輪の石灰化を示す。

2():術後の3DCTで大動脈弁および弁輪の石灰化および下行大動脈にも石灰化を認める。下にApicoaortic valved conduitが見える。

3(左):手術のシェーマを示す。左室心尖部から下行大動脈にステントレス弁付き人工血管でバイパスする。

4():術後の造影CT:左室心尖部から下行大動脈にかけ人工血管の良好な開存を認める。

術前左室と大動脈の圧較差は最大84.7mmHgあったが、術後は28.8mmHgに低下した。

297歳、女性の急性解離性大動脈瘤(DeBakeyII型)の手術を行った。2週間前後おいてから手術予定だったが、胸痛が持続し動脈瘤の径も大きく破裂の危険が高いため発症から8日目に上行置換術を行った。手術は心臓がもろく裂けて出血したが、術後は脳梗塞や創部感染も合併せず順調に回復した。調べうる限り胸部大動脈瘤手術の国内最高齢と思われた。

5():術前の造影CT:上行大動脈に解離性大動脈瘤を認める。

6():術後のMRA:上行大動脈の解離腔は消失している。

VATS(腹腔鏡手術)肺区域切除後の慢性期冠動脈破裂の1救命例
 症例は64歳、男性で平成12年より間質性肺炎、肺気腫の既往があり、平成15年6月30日他院にて、肺癌にてVATS左上葉と下葉の区域切除を受けた。

 平成15年9月11日突然胸痛自覚し救急外来受診。来院時血圧は90台で意識混濁、その後ショック状態になり、心エコーにてエコーフリースペースを認め、直ちに心嚢穿刺施行した。心嚢液は血性でドレナージにて意識、血圧回復した。CTにて(図1,2)左胸水と心タンポナーデ認めるも大動脈に解離認めず。血性心嚢液持続するため直ちに緊急手術となった。

 体外循環を開始し血腫を取ると心嚢内に左胸腔と通じる小さな穴とそれに接する回旋枝に出血点を認めた(図3,4,5)。心タンポナーデの原因をVATS手術後慢性期の冠動脈破裂と診断して心停止下に回旋枝の出血点を心膜プレジェット付き7-0プロレン糸のマットレス縫合で止血した。術後は血行動態安定しIABPを必要としなかった。その後は順調に回復し10月6日退院した。

 今回の心タンポナーデの原因疾患の鑑別診断として 1)AMIの左室破裂 2)急性大動脈解離や大動脈瘤破裂 3)心外傷 4)悪性腫瘍の心膜浸潤 5)インターベンション治療時の冠動脈穿孔があげられる。以下それぞれの特徴について述べる。

 1)術前の臨床症状から一番疑ったのはAMIの左室破裂であった。亜急性の経過をたどるoozing型ではなく、blowout型は発症直後から急激な循環虚脱に陥り心拍出量低下、ショック、意識消失、心電図波形が見られるが動脈圧波形が見られないいわゆるelectromechanical dissociationを来すことが多い。本症例は、心エコーにて壁運動は正常で心電図所見もAMIを示さず除外されたが、左室破裂のblowout型と同様に心タンポナーデ解除で血圧、意識が回復した急性型である。oozing型と比べると非常に救命が困難な症例であるが、救急外来で心エコーで迅速診断し心嚢穿刺ドレナージしながら血圧を維持し、緊急手術にて救命できた事は循環器内科、麻酔科、心臓血管外科との連携の良さが要因のひとつであった。

 2)大動脈疾患に伴う心タンポナーデとして急性大動脈解離がある。A型解離はたとえ早期血栓閉鎖型であっても心タンポナーデを伴う場合は、破裂や臓器虚血に至るリスクが高いため緊急手術になる。また急性B型解離でもまれに動脈管をまわって心タンポナーデを合併する事がある。頻度は少ないがバルサルバ洞動脈瘤や上行大動脈瘤破裂もある。

 3)銃創や刺傷などの貫通性心外傷105例の検討で生存率は銃創16%、刺傷65%と予後不良である。生存率に唯一影響する指標として心膜切開時の洞調律の存在をあげている。鈍的胸部外傷で心房、心室の裂傷を生じ心タンポナーデになる事もある。

 4)癌性心膜炎は肺癌、乳癌、白血病、Hodgkin病、non-Hodgkin病の心膜転移が80%を占め、心膜原発腫瘍の頻度は少ない。血行性転移(乳癌など)と直接浸潤(肺癌、リンパ腫、胸膜悪性中皮腫など)があり、診断は心嚢液の腫瘍マーカーの上昇(CEA、NSEなど)と細胞診で85%診断可能である。胸苦、呼吸困難の診タンポナーデ解除に診膜開窓術が有効である。

 5)PTCA後の冠動脈穿孔の合併症は、0.2%−0.6%に見られその内、心タンポナーデになるのは約20%と報告されている。近年、アテローム剥離型ディバイス(カッティングバルーン、アテレクトミー、ローターブレーター)の使用により、その危険性は高くなってきている。
 最終的に術中所見とVATS手術の術者とのカンファレンスにて冠動脈破裂の原因がVATS時の電気メスによる心膜貫通性冠動脈損傷が考えられた。それが急性期は炎症で抑え込まれていた(仮性瘤)のが、今回2ヶ月半を経過して破れたと思われた。


                             結  語

 VATS手術後の慢性期心タンポナーデを救急外来にて迅速に診断し、心タンポナーデ解除しながら緊急手術で救命できた。これには、循環器科と麻酔科と心臓血管外科の連携が大切で、心タンポナーデの原因はVATS時の電気メスによる冠動脈損傷が考えられた。
 
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 図1 術前CT:上行大動脈に解離を認めなかった 図2 心タンポナーデと左胸水貯留を認めた
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 図3 術中写真:心嚢内に大量の血腫を認めた 図4 心膜に左胸腔とつながる小孔を認めた 
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図5左回旋枝より出血を認めた
  
2005年度80歳以上の手術症例の検討
 80歳以上の高齢者の手術は80歳以下の手術と術式は同じだが、重要臓器(脳、心、肺、肝、腎)の機能不全の合併症により手術成績はかならずしも良くはない。さらに手術後の患者の生活の質(QOL)や日常生活の活動性(ADL)の改善度、満足度は意外と低い(40%以下)。今回2005年度の手術における80歳以上の症例の手術成績について検討した。

 80歳以上の手術症例は17例で全体の6.2%を占めた。男9例、女8例、年齢は80−89歳、平均83歳であった。疾患別では大動脈瘤が15例(88%)と一番多く胸部大動脈瘤8例、腹部大動脈瘤7例であった。胸部大動脈瘤は解離4例うち破裂2例含み、真性4例であった。置換部位は上行置換1例、弓部4例、下行3例であった。その他大動脈弁置換1例、ASOの腹部大動脈−両側大腿動脈バイパスが1例であった。手術成績:術後1か月以内の早期死亡はなく、遠隔期死亡は3例であった。遠位弓部大動脈瘤の膀胱癌合併の患者を術後3.2か月目多臓器不全にて、大動脈弁置換の患者を術後3.5か月目に人工弁感染にて、IIIb型解離の破裂の患者を術後4か月目に呼吸不全にて失った。

 コメント:破裂すると死亡率の高い大動脈瘤手術が80歳以上の手術症例に占める割合が高く、大動脈瘤の年齢による手術適応の禁忌がなくなってきている。特に腹部大動脈瘤の待機手術は80歳以上でも病院死亡もなく良好であった。一方心臓の手術は1例と少なく80歳以上の患者はQOLやADLがほんとうに術後改善されるか、認知症を有していないか、精神症状や日常生活自立度によっては患者本人や家族の同意が得られず心臓手術が積極的には行われないと思われた。
炎症性腹部大動脈瘤3例の治療経験
 炎症性腹部大動脈瘤(IAAA)は腹部大動脈瘤の3-5%をしめる比較的稀な疾患である。
著しい瘤壁の肥厚と周囲組織への炎症反応の波及を特徴としている。瘤の著しい繊維性肥厚のため破裂の頻度は動脈硬化性と比較して低いとされているが、周囲組織や臓器との癒着が高度で手術は困難である。
 当院では過去7年間に155例の腹部大動脈瘤手術を行っているが、今回IAAA3例(2%)を経験したので報告する。術前IAAAの診断率は典型的なCTにおけるマントルサインや腹部症状(腹痛、腰痛、背部痛)、白血球増多の炎症所見を有していると50-60%だが、残りは術中所見により診断される。
 症例1:68歳、男性、IAAA、無症状
 合併症:狭心症、下肢の閉塞性動脈硬化症
 検査所見:炎症所見-、大きさはCTにて最大径5cm、マントルサイン+
 手術:平成16年11月12日、冠動脈バイパス手術
           12月9日、試験開腹、十二指腸と腸間膜が動脈瘤と強く癒着していて剥離困難
           12月20日、両側大腿動脈−膝か動脈バイパス手術
 
 症例2:75歳、男性、IAAA、無症状
 合併症:水腎症、慢性腎機能障害
 検査所見:炎症所見-、大きさはCTにて最大径7cm、マントルサイン+
 手術:平成17年7月21日、Yグラフト置換術
 
 症例3:82歳、女性、炎症性左内腸骨動脈瘤、腹部の不快感+
 合併症:水腎症
 検査所見:炎症所見-、大きさはCTにて最大径5cm、マントルサイン-
 手術:平成17年8月25日、試験開腹、大腸および後腹膜が動脈瘤と強く癒着して剥離困難、
           9月7日、ステントグラフト挿入

結果:IAAAの3例に対して1例は根治的人工血管置換術、1例はステントグラフト挿入による動脈瘤入口部閉鎖、1例は手術不可能であった。IAAAは瘤壁と後腹膜、小腸、腸間膜、静脈、尿管および大腸との癒着が高度で無理な剥離は臓器損傷の危険が大であった。手術が不可能ならステントグラフト挿入などの血管内治療も考慮する必要があった。

手術のポイント:腹部大動脈瘤の待機手術の成績は良好だが、IAAAの手術では10%前後の術中臓器損傷を生じ、それが手術死亡の直接原因になると報告されている。術中は周囲組織との癒着はくりはむやみに行わず、血管吻合部周囲の最小限にとどめ、十二指腸、尿管、腎静脈、下大静脈および大腸の損傷に充分な注意を払う必要がある。


 次に症例2および3の術前、術後のCT,MRA画像を供覧する。

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図1:症例2の術前造影CT
マントルサイン+、動脈瘤は最大径7cmを示し、瘤壁の石灰化と多量の壁在血栓を伴っている。

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図2:症例2の術前3DCT
動脈瘤は腎動脈下から腸骨動脈の範囲まで認め、壁の石灰化を伴っている。

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図3:症例2の術後のMRA
瘤内置換したYグラフトは良好に開存している。

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図4:症例3の術前造影CT
一部壁の石灰化を伴った最大径5cmの左内腸骨動脈瘤を認めた。

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図5:症例3の術前MRA
左内腸骨動脈瘤と右内腸骨動脈の拡大を認める。

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図6:症例3の術後MRA
左腸骨動脈にステントグラフトを挿入し左内腸骨動脈瘤の入口部を閉鎖し動脈瘤は消失した。



下肢の閉塞性動脈硬化症(ASO)に対する外科治療 
   -上行大動脈から下肢への非解剖学的バイパス手術を施行した2例を含む-
 PAD(peripheral arterial disease)とは欧米の呼び名でわが国ではASOという呼び名が一般的で、バージャー病の閉塞性血栓血管炎が稀な疾患になり、PADとASOは動脈硬化性の下肢病変と言う意味で同一である。
 PADの患者は臨床症状(Fonteine分類、表1)とABI(足関節/上腕血圧比)で分類され治療方針が決まる。FontaineII度,III度ではバルーンやステントによる血管内治療や外科療法(バイパス手術)が優先される。W度では切断になる。下肢切断術2年後には30%が対側も切断となり50%が死亡するといわれ予後不良である。PADは全身の動脈硬化の一部分症で早期に診断し薬物療法で進行を遅らせることも可能だが手遅れになる前に、早期に血行再建術が必要である。
 
  表1 Fonteine分類
  I度   無症状、冷感、しびれ感
  II度   間欠性跛行
  III度  安静時疼痛
  W度  壊疽、潰瘍

 
 当院では過去5年間のPADに対する血行再建手術を223例に行っている。再建術式は1)腹部大動脈からのバイパス(A-F)45例、2)大腿動脈以下のバイパス(F-P:94、F-F:42)136例、3)腋下動脈からのバイパス(Ax-F)9例、4)その他33例(血栓除去:18、血管形成:15)であった。
 今回腹部大動脈の全周性の石灰化を伴ったPADの患者2例に対して上行大動脈から両側大腿動脈へ非解剖学的バイパス手術を施行した。
 症例1は76歳、男性で左鎖骨下動脈閉塞も伴い、平成17年2月17日に上行-両側大腿動脈バイパスを5月26日に両側F-Pバイパスを2期的に行った(図左)。症例2は77歳の男性で平成17年6月2日に上行-両側大腿動脈バイパスを行った(図右)。症例2で長期にわたり人工血管からの血漿蛋白漏出で長期ドレナ-ジを要したがその他は問題なく経過した。
 今回の術式選択の背景:過去高位腹部大動脈閉塞の3例に対し、非解剖学的バイパス手術を施行した。2例は上行大動脈から1例は腋下動脈から両側大腿動脈へバイパスした。非解剖学的バイパス手術は高齢者やハイリスクな患者(心機能障害、脳血管障害、呼吸器障害)にも侵襲が少なく、手術は簡単で出血も少ない利点があり、短所としてグラフト自体の問題、長期開存に問題あり。これをふまえて今回、腹部大動脈の全周性の石灰化を伴ったPADの患者2例に対して、唯一正常な大動脈の上行大動脈から両側大腿動脈へ(人工血管の口径は10mmと8mmを使用)非解剖学的バイパス手術を施行し良好な結果が得られた。

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 図の説明:術後のMRAを示す。左図:症例1、76歳、男性、両側の腸骨動脈に多発性の狭窄と両側の浅大腿動脈の閉塞を認め、上行大動脈から右大腿動脈にバイパス(10mm)し、右大腿動脈から左大腿動脈にバイパス(8mm)施行した (1期目)。次に両側大腿動脈から膝か動脈にバイパス(8mm)施行した(2期目)。右図:症例2、77歳、男性、右腸骨動脈完全閉塞、左腸骨動脈の狭窄を認め、上行大動脈から右大腿動脈にバイパス(10mm)し、右大腿動脈から左大腿動脈にバイパス(8mm)施行した。両者とも人工血管の良好な開存を認めた。

2004年度緊急手術16症例の検討
 2004年度の手術症例は249例でうち緊急手術は16例(6.5%)であった。
内訳は1)急性大動脈解離5例(DeBakeyI型4例、IIIb型1例(右胸腔内破裂))、2)急性心筋梗塞4例(左室自由壁破裂2例、心室中隔穿孔1例含む)、3)大動脈瘤破裂3例(腹部大動脈瘤2例、胸腹部大動脈瘤1例)、4)高位腹部大動脈閉塞1例、心臓腫瘍による肺梗塞1例、大動脈弁閉鎖不全による心不全1例、PTCA後の後腹膜出血1例であった。年齢は54歳から82歳、性別は男8例、女8例であった。
 術後の合併症:肺梗塞による右心不全1例、PCPS1日の機械的補助により回復、胸腹部大動脈瘤破裂の1例で対麻痺、腹部大動脈瘤破裂の1例で下肢火傷、腹部大動脈高位閉塞の1例で完全房室ブロックを合併しペースメーカー植え込みを行った。
 成績:早期死は1例で腹部大動脈瘤破裂を術後10日目に敗血症で失った。遠隔死は心室中隔穿孔の1例を術後1.5か月目にMRSA肺炎、DICにて失った。この2例以外は病院死は認めなかった(病院死12.5%)。
 結語:緊急手術16例中9例が破裂症例であった。破裂部位は心筋破綻3例(死亡1例)、心嚢内2例、胸腔内2例、後腹膜2例(1例)でった。破裂例の病院死亡は2/9(22.2%)であり、疾患の緊急性、重症度からは満足しうる結果であった。ただし、胸腹部大動脈瘤破裂の1例は今回3回目の手術で1回目弓部全置換、2回目腹部大動脈-両側大腿動脈バイパス手術後の遺残瘤破裂症例であり、置換部位も広範囲で避け得る事なら避けたい脊髄動脈損傷による対麻痺を合併した。62歳と若く現在リハビリの毎日であるが命を助けられた事が唯一の救いである。
 次に実際の症例を提示する。
54歳、男性、DeBakey IIIb型解離性大動脈瘤の右胸腔内破裂の1例である(造影CT)。通常破裂は左胸腔内に多く右胸腔内に破裂するのは稀である。

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上図:胸部下行大動脈の内側に解離腔を認め、そこから右胸腔内に破裂し大量の血液が右胸腔内に貯留している。



遠位弓部大動脈瘤10例の手術成績の検討   -手術到達法と術後出血および脳合併症対策を中心に-
 はじめに:遠位弓部大動脈瘤に対する手術は手術方法、補助手段の進歩により手術成績の向上を認めているが必ずしも満足すべきものではない。今回、手術到達法、脳保護法、手術方法の改良により術後出血および脳合併症と手術成績の改善を認めたので報告する。
 症例:最近施行した遠位弓部大動脈瘤に対する手術は10例で、男6例、女4例、年齢53-81歳、平均71.7歳、真性瘤9例、嚢状1例であった。主訴は胸部X-pの異常影が4例、胸痛、背部痛が3例、嗄声3例であった。術前破裂例1例含み、既往歴としてくも膜下出血1例、腹部大動脈瘤2例含む。動脈瘤の大きさは平均6.6cm(3.8-8.7cm)、左鎖骨下動脈からの距離は平均5.9cm(4.5-7.1cm)であった。
 手術方法:全例胸骨正中切開にて瘤に到達し、破裂例を除く9例は上行大動脈(順行性)送血で体外循環を開始し、低体温循環停止を併用し、脳分離体外循環の脳保護と4分枝付き人工血管を用い、鉗子をかけずに開放にて人工血管の断端を外翻して末梢側吻合を行い、左鎖骨下動脈再建し、次に中枢側吻合を行なって、最後に頭部分枝血管の再建を行った。
 結果:体外循環時間は平均3時間40分、大動脈遮断時間は平均1時間59分、循環停止時間は平均1時間、脳分離体外循環時間は平均2時間10分、最低直腸温は平均24.8度C、手術時間は平均6時間4分であった。
 成績:術後脳梗塞1例、非閉塞性の腸間膜動脈虚血1例を合併し、後者を術後7日目失った以外は全例生存した。

症例提示
胸部X-p:左第1弓の拡大と左胸水貯留を認める。
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術前の造影CT:血栓を伴った径7cmの遠位弓部大動脈瘤を認める。
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術後のMRA:4分枝付き人工血管で弓部全置換施行し人工血管吻合部に異常を認めない。

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当院の透析患者の現況   -シャントトラブルと透析患者の心血管手術を中心に-
 日本透析医学会の2002年度わが国の慢性透析療法の現況のデータを引用し当院の透析患者の現況(シャントトラブルと透析患者の心血管手術を中心に)を分析した。

 日本透析医学会の統計によると、わが国の慢性透析患者は229,538人で導入患者数は33,710人、死亡患者数は20,614人で毎年直線的に増加して、5年未満の透析患者数は113,075人で全体の51.4%、5年以上10年未満の患者数が53,766人で24.4%を占めていて透析歴10年未満の患者が全体の76%を占めている。都道府県別患者数では上位7位は東京都、大阪府、神奈川県、愛知県、北海道、埼玉県、福岡県でありいずれも1万人を超えている。透析導入の原因疾患として糖尿病が39.1%とトップを占め、慢性糸球体腎炎は年々減少傾向が見られ31.9%と2位である。透析患者の平均年齢は62.2歳でこの10年間で5歳ほど高齢化した。また透析導入患者の平均年齢は64.7歳である。死亡原因は第1位心不全25%、第2位感染症16%、第3位脳血管障害11%、第4位悪性腫瘍8.5%、第5位心筋梗塞7.4%であった。透析導入患者の生存率は1年生存率85.6%、5年生存率59.7%、10年生存率40.2%、15年生存率は28.7%で、長期生存率は年々低下傾向にありこれは患者の高齢化に加えて、長期透析に伴う合併症の影響が大きく関与するとしている。

 次に当院の透析患者背景を説明する。
       透析患者:81症例、男54例、女27例
               平均年齢68.5歳
               透析歴平均51か月(1-160か月)
       blood access:native atriovenous fistula(AVF) 74例
                atriovenous graft(Graft) 7例

 当科では毎年40例前後の透析関連手術を施行しているが、シャントの合併症として血栓症、狭窄、感染、出血がある。

1. 狭窄 15症例で29回PTA施行、うち4例が閉塞した。
       AVF 13例で25回PTA施行し、うち閉塞3例
       Graft 2例で4回PTA施行し、うち閉塞1例
    その他:Graftによる外腸骨静脈狭窄による下腿浮腫に対して対側大腿静脈バイパス術1例施行した。
2. 閉塞 18症例で21回 
       AVF 16例、19回、Graft 2例、2回
それに対して対側AVF造設11例、同側AVF造設1例
         Graft造設6例、対側Graft造設2例施行した。
3. 感染 1例(Graft)に対し1回目:partial graft resection 2回目:total graft resection  3回目:AVF造設した。
Graftの合併症はAVFに比較して2-3倍高い。また、ぶどう球菌属によるGraft感染は致命的敗血症や出血を引き起こす前に完全切除が望ましく、感染治癒した後に再度新たな内シャントを造設しなければならなかった。

 次に透析患者の生命予後に影響する心血管合併症に対する手術成績を示す。
 近年慢性透析患者に対する心血管手術は増加しているが、術後不整脈、感染症、脳血管障害の合併症の発生率は高く在院期間が長くなりその対策が課題とされている。また、遠隔成績では糖尿病、ASOの全身血管の進行性動脈硬化病変が予後を不良にしている。
 当院の透析患者の心血管手術は10例でCABG 6例、Valve 1例、AAA 1例、TAA 1例、ASO 1例であった。透析患者は糖尿病、ASOの合併も多く、大動脈(上行、弓部、下行、腹部)、冠状動脈、大動脈弁の石灰化が強く進行すると手術適応が無くなる症例も決して少なくない。手術時期を逸しない事が重要である。石灰化AS+MsRの1例をLOSで失った以外は全例生存した。

1. 52歳、女性
  unstable angina, aortic sclerotic disease, 透析歴13年
  CABG to LAD (LITA)&RC(RITA)2枝(00/1/25) 生
2. 78歳、男性 
  AMI,LOS(IABP,intubation)、 透析歴10か月
  emergency CABG to LAD(LITA)&D1(SVG)2枝(00/12/26) 生
3. 54歳、男性
  OMI, 腹膜透析歴10カ月
  CABG to LAD(LITA)&LCX&D1(sequential SVG)3枝(01/10/9) 生
4. 46歳、男性
  EAP, LtASO、透析歴14年
  CABGtoLAD&LCX(sequentialSVG)&RC(SVG)3枝(02/3/26) 生
5. 55歳、男性
  EAP、透析歴5年
  CABGtoLAD(SVG)&LCX2sequentialSVG3枝(02/9/3) 生
6. 55歳、女性
  EAP, 透析歴1年
  CABGtoLAD(RITA)&LCX(LITA)2枝(04/3/16) 生
7. 49歳、女性  
  AS,MsR、透析歴8年
  TranslocationAVR+MVR(02/1/15),LOS,術後1日目死亡
8. 75歳、男性
  AAA, LtASO、透析歴3年
  Ygraft(03/5/22) 生
9. 60歳、男性 
  Desc. anuerysm (saccular type) ,intra pulmonary ruptured、透析歴15年
  Desc. graft replacement (01/4/24) 生
10. 83歳、男性
  ASO, A-LtFbypass(1992), F-F+LtF-Pbypass(00/9/7)、透析歴7か月
  Foargarty血栓除去+吻合部patch angioplasty(01/2/15) 生

コメント:当院の透析患者の平均年齢は全国平均より6歳高齢である。初回の内シャント造設に苦労する症例も多い。死亡原因の1位と5位の心不全と心筋梗塞に対して外科治療を行うとしても全身の血管の動脈硬化病変の進行度によっては手術を断念せざるを得ない症例もある。心血管手術における透析患者のリスクは全身の血管の石灰化が手術を可能にするかどうかにあり、術前の検討を要するとともに、術後も死亡原因の2位の感染症に対する対策も重要であった。


急性心筋梗塞の機械的合併症11例 (心室中隔穿孔7例、乳頭筋断裂2例、心破裂2例)の手術成績の検討
はじめに:心筋梗塞急性期の合併症で心筋の破綻から生じる心室中隔穿孔(VSR)、乳頭筋断裂による僧房弁
      閉鎖不全(MR)、左室自由壁破裂は急性心筋梗塞の死亡の主要な原因である。 

1999年度日本胸部外科学会の報告によると
 虚血性心疾患に対する手術 18、703例うち心筋梗塞の機械的合併症に対する手術は503例(2.7%)と決して多くはないが手術成績は急性期死亡が35-49%と最も予後の悪い疾患である。

1. VSR閉鎖術209例(1.1%)
   急性期手術178例、慢性期手術31例
   病院死79例、急性期77例(43.3%)’、慢性期2例(6.5%)

2. MRに対する手術162例(0.87%)
   急性期手術49例、慢性期手術113例
   病院死34例、急性期24例(49%)’、慢性期10例(8.8%)

3.心破裂に対する手術132例(0.7%)
   急性期手術130例、慢性期手術2例
   病院死46例、急性期46例(35.4%)慢性期0


次に
当科の急性心筋梗塞後の機械的合併症11例の手術成績を検討した。

 
                   VSR 7例

1. 患者1 65歳、女性、 術前MRSA肺炎合併、VSR patch LV plasty (2000/3/21)、術後4カ月目不整脈で死亡

2. 患者2 65歳、女性、 術前IABP+、 VSR patch LV plasty( 2000/11/27)、 術後1週目LOSで死亡

3. 患者3 86歳、男性、 術前IABP+,呼吸器+、敗血症(緑膿菌)、 VSR patch LV plasty (2001/9/27)、 
                術後2週目、感染 (緑膿菌)によるMOFで死亡

4. 患者4 64歳、女性、 術前IABP+、呼吸器+、VSR patch LV plasty (2002/10/9 )、生存

5. 患者5 52歳、男性、 術前IABP+,呼吸器+、VSR  patch LV plasty (2003/3/20)、 術後1日目LOSで死亡

6. 患者6 75歳、女性、 術前IABP+、呼吸器+、VSR patch LV plasty  (2003/5/19)、 術後10日目LOSで死亡

7. 患者7 56歳、男性、 術前IABP+,呼吸器+、PTCA、VSR patch LV plasty&CABGtoLAD&D1
                (sequential SVG2枝) (2004/1/6)、術後1.5か月MRSA肺炎、DIC で死亡


コメント: 術後1か月以内の早期死は4例(57%)と高く、独歩退院長期生存(1年9か月)は1例のみと術前状態の
      悪さ、手術の困難さ、術後も低左心機能と感染症の併発による悪循環が予後不良にしていた。 



                             乳頭筋断裂、MR 2例

1. 患者8 68歳、男性、 術前IABP+、呼吸器+、CABG to LAD(SVG)1枝+MVR(23SJM) ( 2000/10/22)、 生存

2. 患者9 64歳、女性、 術前IABP+、呼吸器+、emerg.MVR(25SJM) (2001/5/9 )生存


コメント:2例とも生存し結果は良好であった。ただし、ちょっと油断すると外来で心不全症状を呈し、厳密な
     心不全のコントロールと厳格な自己管理を要した。 



                             心破裂2例

1.患者10 85歳、男性、 心タンポナーデ、emerg.felt patch repair (2002/3/13)、生存

2.患者11 67歳、男性、 左室破裂(再発)、ショック状態
                emerg .felt patch repair(2004/4/1)、術後(IABP+) 生存
      

コメント:ともに救命できたが、1例はカテーテル検査室から手術場へ、1例は救急車から直接手術場へと
     すべては手術までの時間、心臓が止まる前に胸を開けられるかどうかで勝負が決まる。

結語:急性心筋梗塞の機械的合併症は最も救命率の低い疾患である。当科でもVSRの急性期死亡は57%と高く
    逆にMRや心破裂の手術は100%救命できうる結果になった。手術の目的は第一に救命であり、破綻した
    心筋の機能回復は望めず、患者の生活の質の改善はあまり期待できない。
    当院における循環器専門医による迅速な診断と心臓外科医と麻酔科医の連携による手術のタイミング、
    手術室およびICUの24時間の受け入れ体制など、循環器専門病院としてのチームワークが更なる成績の
    向上に寄与するものと思われた。


区切り線
75歳以上の高齢者に対する心大血管手術の検討
-80歳以上の手術適応の再考察-

は じ め に

75
歳以上の高齢者に対する心大血管手術に対する手術成績を特に80歳以上と比較検討し、手術適応(特に80歳以上の症例)について再考察した。

対象:過去
10年間に施行した75歳以上の高齢者に対する心大血管手術は143例で全体の14%を占めていた。75歳以上79歳以下をI(98)、男66例、女32例、平均76.8歳と80歳以上II群(45例)、男21例、女24例、平均82.4歳に分けた。

結     果

1
)術後の合併症は脳合併症が3例(脳梗塞、一過性脳虚血発作,ヘルペス脳炎がそれぞれ1例)、術後出血と消化管出血がそれぞれ1例ずつ認めた。

2
)心臓手術は75例でI(56)II(19)I群では冠動脈疾患に対する手術が49例、弁膜症6例、同時手術1例含み、II群では冠動脈疾患のみで弁膜症の症例は含まれていない。緊急手術がI2例(3.6%)に対しII群は8例(42.1%)(急性心筋梗塞が6例うち心室中隔穿孔と心破裂がそれぞれ1例、経管的冠動脈形成術失敗と陳旧性心筋梗塞の心不全がそれぞれ1例)と高かった。病院死はI群が2例(1.5か月目にメシチリン耐性黄色ブドウ球菌肺炎と2.6か月目に他臓器不全)、II群は2例(心室中隔穿孔の1例を術後2週目に緑膿菌感染症で失い、1例を術後33日目に造影剤による腎不全にて失った。)

3)腹部大動脈瘤に対する手術は46例でI27例、II19例でII群に破裂例3(うち1例はステントグラフト挿入)を含んでいた。病院死はI群はなく、II群で1例術後22日目メシチリン耐性黄色ブドウ球菌肺炎にて失った。

4)胸部大動脈に対する手術は22(上行3例うち大動脈弁置換同時2例、冠動脈バイパス手術同時1例、弓部6例、下行11例、胸腹部2)I15例、II7例でI群で急性I型解離を、II群でIIIbの破裂例1例含んでいる。病院死はI群で1IIIb型で1.5か月目に膿胸でII群で2例、1例は遠位弓部+胸腹部大動脈瘤の患者で下行置換術施行し術後1日目低心拍出量症候群にて失い、1例は術後5か月目に間質性肺炎にて失った。

5
)入院日数は心臓手術ではI群、II群とも平均31日で75歳以下の平均24日よりは長い傾向を示した。腹部大動脈瘤手術はI30日、II27日でこれは75歳以下の29日と差はなく、胸部大動脈瘤手術のそれはI群、II群とも43日で75歳以下の38日よりも長い傾向を示した。

結    語

II
群の症例は緊急手術(急性心筋梗塞や破裂)の割合が高く、必ずしもI群の症例に比較して成績は良くはない。特に高齢者では術後の感染症の合併(病院死8例中5)が成績を不良にしているので侵襲の少ない手術が望まれる。しかし、冠動脈バイパス手術や腹部大動脈瘤の手術では75歳以上の高齢者、特に80歳以上でも定期手術の成績はさほど75歳以下と遜色なく充分患者、家族に手術の危険度を説明し同意を得て積極的に行ったほうが良いと思われた。

コ メ ン ト

92
歳の患者さまが外来に来て先生に手術を受けたのは89歳の時だったと言われて、老人力の恐ろしさ、畏怖とも言うべき感情をいだいた。大動脈瘤は破裂したら即死のため手術の年齢による適応制限はなくなって来ているが、80歳を超えていると患者さまも家族も自分も含め手術に二の足をふむのが実際だが、見た目若そうな患者さま、口の達者な患者さまについては手術の結果もおおむね良好であった。ただし、切羽詰ってからの緊急手術はあたりまえだけどその他の臓器不全の悪循環により成績は必ずしも良好でないが、80歳以上でも心臓のバイパス手術や腹部大動脈瘤の予定手術は通常の年齢の患者さまと成績に差がないことがわかった。
入院日数(手術別)
 2003年3月3日の日本経済新聞で厚生労働省が全国の大学病院などを対象に患者の入院日数を調査報告した。
 同じ疾患でも入院日数が2倍近い開きがあり、患者の医療機関選択の一つの基準になりそうと結論ずけている。

 当科でも平成14年度の入院日数を調べた。
心臓血管外科全体の平均入院日数は18日であった。さらに手術別に入院日数を算出した。
手術別入院日数 入院日数(平均)
1.冠動脈バイパス手術 22日
2.弁膜症手術 26日
3.腹部大動脈瘤手術 29日
4.胸部大動脈瘤手術 38日
5.下肢のバイパス手術 17日
6.下肢の静脈瘤手術 4日


 冠動脈バイパス手術は平均22日の入院
 これは大学別の順天堂大学、京都府立医大に次ぎ入院期間は短くなっている。手術前4日に入院し、自己血貯血し、冠動脈バイパス手術を施行し、術後6日目にバイパスグラフト造影を施行し術後2週目で退院するのが通常であった。中には1例冠動脈バイパス手術ではないが急性心筋梗塞の致死的合併症である心室中隔穿孔で緊急左室パッチ形成術を施行した64歳、女性は退院まで123日を要したが重症な患者はゆっくり時間をかけ心臓と身体機能回復に努める方がいい結果を招く場合もある。


 【冠動脈バイパス手術(平均33.7日)】
 短い  長い
1.順天堂大学 約18日 1.川崎医科大学 約57日
2.京都府立医科大学 約21日 2.日本医科大学 約52日
3.東京医科歯科大学 約26日 3.久留米大学 約49日

 入院日数の短い病院が一概にいい病院とは言えないがたくさんの症例をこなし、医療スタッフの質が向上し成績が安定すると術後の患者さまの回復も早く必然的に入院期間は短くなる。
 今回、病院評価の単純な指標となる入院日数を手術別で算出し報告した。


 感染性胸部・腹部大動脈瘤2例の治療経験
 感染性大動脈瘤は比較的稀な疾患であるが、致死率は高く、予後不良である。破裂の危険が高く治療方針として術式や再建経路の選択、術後対麻痺の防止、さらに感染再発の予防といった問題を含んでいる。今回感染性胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤の2例の外科治療を経験した。2例とも人工血管はリファンピシン侵漬して用い、胸部の1例は大網充填を腹部の1例はステントグラフトを用い良好な結果が得られた。

症例161歳、男性
経過:平成183月より3839Cの熱発認め滝川市立病院で精査した。血液検査で白血球19400CRP8.3、炎症反応+であるが、膠原病はなく血液培養でも菌は検出されなかった。CT検査にて下行大動脈に35mmと15mmの二つの嚢状の大動脈瘤を認めた。MRI検査(1)にて瘤壁のび慢性肥厚と、炎症所見を認めた。抗生剤モダシンにて解熱するも投与中止すると再度熱発した。58日破裂の危険が高いため当科転科した。その後も38Cの熱発見られ、ユナシンとバンコマイシンの抗生剤を使用しながら523日手術を施行した。
手術:double lumen気管内挿管、左第7肋間開胸すると嚢状の大小2個の動脈瘤を認めた。右大腿動静脈送脱血の部分体外循環を開始し、22mm1分枝付き人工血管をリファンピシンに漬けて分節遮断にて下行置換術を施行した。胸部大動脈瘤はすべて切除し、最後に腹腔内より大網を採取し人工血管に被服した。体外循環時間1時間16分、手術時間4時間36分であった。
術後経過:対麻痺の発生もなく術後感染の再燃は認めなかった。62日のMRA検査(2)でも人工血管良好に開存して68日退院した。

症例255歳、男性
経過:平成18211日、腹痛と発熱で外科受診。血液検査で赤血球321万の貧血とCRP69の炎症所見を認め、CT検査にて大きさ9cmの腹部大動脈瘤を認めた。破裂性であったため当科転科してMRA検査(3)にて大きさ6.88cmの嚢状の腹部大動脈瘤を認めた。223日開腹手術を施行するも腹腔内の癒着高度で炎症性腹部大動脈瘤と診断、手術を断念した。329日左大腿動脈よりステントグラフト挿入試みるASOにてシースが上がらず失敗となる。その後退院して外来経過観察なったが、518日突然、左下肢の筋力低下で転倒し救急車で来院した。MRI検査(4)にて腹部大動脈瘤は大きさ10x11.2cmに拡大し左腸骨動脈の閉塞を認めた。入院1週間目に40度Cを超える熱発を認め、血液培養にてブドウ球菌検出された。炎症性から感染性腹部大動脈瘤と診断された。バンコマイシン点滴により解熱し、615日開胸にて胸部大動脈に10mm人工血管を立て、そこより18フレンチのシースを通し16mmの薄い人工血管の内側に長さ5cmのZステントを挿入固定しリファンピシンに漬けて腹部大動脈瘤の入り口を塞ぐようにステントグラフトを腎動脈下の腹部大動脈に留置し拡張した。直後の造影ではステントグラフトとその末梢側が造影され動脈瘤は造影されなかった。その後は熱も見られず良好に経過した。
結語:感染性大動脈瘤の手術の基本は感染巣の除去、洗浄であるが、手術時期の決定、その後元あった場所に人工血管置換(解剖学的血行再建)するのか、非解剖学バイパス手術するのか再建方法は決まってはいない。感染症の手術では人工物がある場合は摘除しなければ治癒しないという原則があるのに人工血管を入れなければならないという矛盾があり、手術には感染から人工血管を守る工夫が必要となる。今回経験した2例は、胸部大動脈瘤の1例は動脈瘤の完全切除とリファンピシン侵漬人工血管使用と大網充填の組み合わせで、炎症性から感染性に変わった腹部大動脈瘤の1例はリファンピシン侵漬ステント人工血管使用で感染の再発をコントロールできた事が術後良好な結果につながり、今後も抗生剤の長期投与が必要と思われた。

図供覧

1():症例1の術前のMRA:下行大動脈に嚢状の動脈瘤を認める。大動脈に石灰化を伴う。
2():症例1の術後のMRA:大動脈瘤は消失し、人工血管は良好に開存している。

写真写真

3():症例22月のMRAで腹部に嚢状の動脈瘤を認める。
4():症例25月のMRAで動脈瘤がさらに拡大し、左外腸骨動脈の閉塞を伴う。

写真写真
過去9年間1892例の心血管手術成績検討
グラフ

 心臓手術439例、胸部大動脈瘤手術133例、腹部大動脈瘤手術202例、末梢血管手術1,118例である。

グラフ

年平均200例と横ばいである。2004年よりCABG減少による心臓手術が減少しているが、代わりに胸部および腹部大動脈瘤が増加している。

グラフ

 待機的冠動脈バイパス手術の手術死(30日死亡)0.8%、病院死2.4%であった。

グラフ

急性心筋梗塞の機械的合併症すなわち心室中隔穿孔、左室破裂、乳頭筋破裂の手術死33.3%、病院死44.4%と最も予後の悪い疾患であった。

グラフ

 弁膜症手術の手術死2.5%、病院死5.1%であった。

グラフ

胸部大動脈瘤手術では脳保護(順行性および逆行性脳分離体外循環併用)を行いながら同時に脳の3分枝血管を置換する弓部置換術が41.1%と最も多く、次いで下行置換31.1%、上行置換27.8%の順であった。

グラフ

待機的胸部大動脈瘤手術の手術死は1.5%、病院死4.6%であった。胸部大動脈瘤の緊急症すなわち急性解離の中でも心膜腔内への破裂による心タンポナーデ、大動脈交連部の脱落による高度の大動脈弁閉鎖不全とそれにともなう急性重症心不全、そして冠動脈起始部の解離波及による急性心筋虚血 、腸管虚血、下肢虚血を合併したり破裂してショック状態になった症例が全体の27.8%を占めていた。

グラフ

その緊急手術の手術死20%、病院死28%であった。

グラフ

待機的腹部大動脈瘤手術の手術死2.9%、病院死3.6%であった。

グラフ

破裂例の手術死および病院死は50%であった。日本の総人口12776万人でそのうち高齢者人口(65歳以上)は20%を占めている。前期高齢者(6574)11%、後期高齢者(75歳以上)9%である。ちなみに砂川市総人口 20068人で65歳以上 5616人で高齢化率28%は日本の平均を超えている。

グラフ

手術別の平均年齢は冠動脈バイパス手術が66.5歳と65歳を超え、弁膜症手術67.3歳、胸部大動脈瘤手術69.9歳、腹部動脈瘤手術は74.5歳であった。

グラフ

 冠動脈バイパス手術で70歳以上の高齢者は48.9%であった。

グラフ

 弁膜症で70歳以上の高齢者は46.1%であった。

グラフ

 胸部大動脈瘤で70歳以上の症例は55.6%であった。

グラフ

 腹部大動脈瘤手術の70歳以上の症例は74.5%を占めた。

グラフ

さらに80歳以上の症例の割合は冠動脈バイパス手術で7%、弁膜症で5.1%、胸部大動脈瘤で21.1%、腹部大動脈瘤で28.7%を占めた。

結論

1.手術症例における高齢者の割合が増加、特に胸部および腹部大動脈 瘤手術
2.手術成績は待機手術2-4%、緊急手術20-40%の死亡率で良好であった。
3.外科医の自己満足度はマルであった。患者の満足度(感謝状、苦情、入院期 間、外来待ち時間)は未知数でこれからの課題として検討する予定。

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