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田舎が最先端?(研修先の病院を考えている学生さんへ)
田舎が最先端?   砂川市立病院 事業管理者 平林高之 

 砂川市は北海道の中央部、札幌市と旭川市のほぼ中間に位置します。人口は1万7千人、それでも一応「市」です。中空知二次医療圏に属し、この医療圏の面積は東京都の面積と同じでそこに11万人が生活しています。田舎町です。

 周辺は昔、炭鉱で栄えましたが衰退したのち、現在は農業が主産業になっています。高齢化率は40%に手が届きそうな状態です。病院は高齢者であふれており、ある意味病院内には活気があります。そこへ時々、大学から学生さんが見学に来てくれます。当院での初期臨床研修を希望して見学に来てくれます。

 見学を開始する前に必ず私が面談し病院と地域の紹介をすることにしています。これをしないで直接病棟にあがったりすると、見学にきた学生さんは入院患者があまりに高齢者が多く、特に90歳以上の患者さんの多さにびっくりして、老人ホームと間違えて研修先を変えようと考えてしまうことがあります。「ここの医療は今まで見た医療とは違う特殊な医療ではないか。こんな所で研修できない」と思ってしまうのです。

 大学病院と比べ、おそらく20歳は平均年齢が上です。事前に説明して免疫を作っておかないといけません。面談では田舎の研修病院と都会の研修病院の違いを説明することにしています。私見ですが、結構当たっていると言ってくださる方が多いです。

 田舎の研修病院のいいところ、その1「患者が集中することでフォローがしやすい。」患者さんの転帰を知ることができることです。当院は救命救急センターを持ちます。当地域で唯一の救命救急センターで全ての患者を受け入れます。いや、受け入れざるを得ません。ここで断れば70~80㎞離れた札幌や旭川に行かなければなりません。ここで医療を完結しなければなりません。この救命救急センターでの研修が当院の初期研修の目玉になっています。

 ここでの研修をしたくて当院を希望する学生さんがたくさんいます。担当した患者で経過が気になる場合、患者IDをチェックし、後日に電カルテを開くと転帰を知ることができます。「大丈夫」と帰した患者が悪くなったら、また当院の昼間の外来か救急を受診しています。後日の専門医受診を勧めた場合は当院の専門科を受診しています。多くの場合、経過を最後まで知ることができます。後日、専門医から診断プロセスの指導を受けたり、お叱りを受けているようです。
 都会では救急は持ち回りであり、大きな病院が多数あるため救急での患者さんの転帰を知ることは困難な場合が多いのではないでしょうか。転帰を知ることが出来ることは学習の場として非常に適しています。

 その2、患者さんに高齢者が多いけれど「高齢者は常識的で医療者を信頼してくれるので診療がやりやすい」。これには異論のある方もいるかもしれません。あくまで私見です。当地の高齢者が特別なのかもしれません。今の世の中、患者・家族によっては初めから医療者を疑った目で見ることがあります。特に若い医療者はその被害にあいやすくモチベーションを下げる原因となります。その点「ここは都会よりいいよ」と言っています。

 さて、現実の医療はというと高齢者との闘いです。おそらく都会の病院の20年後の姿ではないかと思います。認知症、独居、老々介護の問題、医師、医療職、医療資源の不足などの社会的問題が都会以上に山積しています。医学的には高齢であることから治療適応の判断に悩むことが多々あります。治療経過も山あり谷あり一筋縄ではいかないことばかりです。研修医にも言っています。「高齢者は非典型が典型だ」と。高齢患者に対しての正解のない医療、ガイドラインに沿えない医療、手探りの医療を続けています。高齢者の終末期医療での葛藤、「どこまでやるの?」と日々悩みながら診療しています。もちろん多職種によるチーム医療、認知症ケア、リエゾンチーム、地域連携室の活躍により解決されていくことがほとんどですが、そこにかかる労力は半端ではありません。そして、地域包括ケアシステムの中心となるべく介護、福祉、行政との連携もしっかりしています。これらの連携は田舎のほうがやりやすいようです。適度な人口規模であり、顔の見える関係を構築しやすく、基幹病院を中心にした連携、意志決定のしやすさがあります。認知症ケアなどで色々なモデルケースを実現することができました。

 この地域で起きている出来事はいずれ都会で問題となることばかりのように思えます。だから見学に来た学生さんには最後に必ずこう言います。「ここで君たちが見たことは、いずれ都会の大病院や大学病院でも問題となるはずだ。君たちはここで20年後の医療を体験できるのだ。そういう意味でこの田舎が最先端だ!」と。