大動脈瘤や大動脈解離に対する新しい治療であるステントグラフト内挿術も積極的に行っております。ステントグラフト内挿術は、2006年7月に我が国で企業製造腹部ステントグラフトが認可され、その後2008年7月には胸部ステントグラフトも認可されました。これまでの通常の開腹・開胸手術に比べて手術のあとに残るキズが小さい、術後の痛みが軽い、部分体外循環、大動脈遮断を必要としない、手術後の回復が早いなど大きなメリットがあります。術後早期より積極的リハビリを行うことで手術後1週間以内での自宅退院が可能です。
胸部大動脈瘤に対する再手術は癒着剥離に伴う出血や周囲臓器損傷の危険も高く、侵襲度は高い。それに対し、ステントグラフト内挿術(SG)は再開胸の必要がなく、人工心肺を使用せず、大動脈遮断も必要なく、低侵襲である。今回、胸部大動脈瘤の再手術症例をSGで治療し良好な結果が得られたので報告する。
症例1は53歳、男性.で、 2005年に急性大動脈解離(IIIa)で下行置換術施行。 術後9年目で末梢のリエントリー部位の限局解離である。
症例2は55歳、男性で、 2007年に急性大動脈解離(IIIb)で下行置換術施行。術後7年目で最大径7㎝の末梢の吻合部瘤である。
症例1の術前CT |
症例2の術前CT |
ともにハイブリッド手術室で全身麻酔、大腿動脈経路でSG内挿術を行った。使用したSGのサイズは26mm径、15cm長であった。手術時間平均65分、出血量平均200mlであった。手術室で麻酔を覚まし、脳梗塞、対麻痺の合併症なくICUに帰室した。
症例1の術後CT |
症例2の術後CT |
ともに術後は良好に経過し、術後のCTでもSGのリークもなく1週間の入院で退院した。
胸部SGの利点として
- 開胸手術を必要としない。再手術の癒着剥離にともなう出血、臓器損傷がない。
- 部分体外循環の補助循環を必要としない。
- 大動脈遮断を必要としない。
- 結果として病院死亡が低く、入院期間が短い。
血管内治療(腹部大動脈ステントグラフト内挿術;EVAR、胸部大動脈ステント内挿術;TEVAR)を積極的に取り入れて、外科手術困難症例や複数の病気を持った患者さんにできるだけ負担をかけないで根治を目指したので報告する。まず1例目は炎症性腹部大動脈瘤(IAAA)に対するEVARの1例である。
IAAAは比較的希な疾患で手術は周囲臓器の癒着が強く、癒着剥離に伴う出血、周囲臓器の損傷が手術を困難にしている。患者は80歳、男性、主訴は食欲不振と倦怠感で、血液検査でCRPが14mg/dlと高く、CTにて(図1)壁肥厚、石灰化と解離を伴った最大径4.8cmのAAAを認めた。入院後発熱はなく、血液培養も陰性で、感染性AAAは否定。PET-CTにて瘤壁に高度の炎症所見を認め、IAAAと診断して、入院2週間目にEVARを施行した。術後1週目のCTでも(図2)リークを認めない。
図1 術前のCT |
図2 EVAR術後のCT |
2例目は、胸部大動脈を合併した急性心筋梗塞に対する緊急冠動脈バイパス術とTEVARの2期的手術である。患者は81歳、男性、まず冠動脈バイパス術を緊急で行い(図3)、その1.5か月目にTEVARと左腸骨動脈閉塞症に対して両側大腿動脈間バイパス術を行った。これを開胸手術のみで同時に行うと手術時 間は長時間を要し、出血と感染のリスクが増す。術後1週目のCT(図4)ではステントグラフトと下肢のバイパスグラフトの良好な開存を示す。
図3 冠動脈バイパス術後のCT |
図4 TEVAR+F-Fバイパス術後のCT |
最後に、胸部下行大動脈瘤と腹部大動脈瘤(図5)に対するTEVAR、EVARの同時手術である。患者は75歳、男性で、胸とお腹を同時に開けるのは患者さんにとって過大な侵襲であり、術後の回復には長期の時間とリハビリを要する。それに対してTEVARとEVARの同時手術は両鼠径を2cm切開し動脈を露出するだけの創で手術の時間も数時間で終了する。術後のCT(図6)でも両ステントグラフトは良好に開存している。
図5 術前のCT |
図6 TEVAR+EVAR術後のCT |
最近の傾向として従来の開胸、開腹手術より低侵襲が売りの血管内治療が流行になっているが、手術には短所(侵襲や創が大きい)と長所(1回で治癒)があり、血管内治療にも同様に短所(リークや対麻痺)と長所(侵襲や創が小さい)がある。どちらか一方のみに固執して治療を行うのではなく、両者の長所を最大限に生かしそれを組み合わせることにより患者さんにとって最善の治療を選択することが重要である。
★マークは女性医師です
| 職名 | 循環器センター長 |
| 出身大学 | 札幌医科大学(平成12年卒) |
| 主な経歴 | 札幌医科大学付属病院 |
| 専門分野 | 心臓血管外科 |
| 所属学会 | 日本胸部外科学会 |
| 職名 | 副医長 |
| 出身大学 | 札幌医科大学(平成30年卒) |
| 主な経歴 | 市立札幌病院 |
| 専門分野 | 心臓血管外科全般 |
| 所属学会 | 日本外科学会(外科専門医) |
| 職名 | 医員 |
| 出身大学 | 札幌医科大学(令和5年卒) |
| 主な経歴 | 市立函館病院(初期研修) |
| 専門分野 | 心臓血管外科全般 |
| 所属学会 | 日本臨床外科学会 |





















